モアイ山に残すしるし case13


「……さむ…」
「ね。もう帰ろうよ」
「ん…だね」


モアイ山にお日様が隠れるまでは、ふたりの時間。

そういう約束をした。


おたがいの名前もしらない、11の男と女は、放課後いつも、この場所で夕日を見た。


体育館ほどの広さの、いまでは、鉄と油の臭いのする、廃棄物の放置場になってしまったグラウンド。

その脇に、どこの誰が育てているのかもわからない、トマトのビニールハウスがある。


横木が2本抜け落ちている、木の梯子をのぼり、左右の棟の間に渡された、アルミの溝を足場にする。

西陽に向いて、左が女、右が男。

これも、はじめに約束をした。


ふたりは、7日の間、毎日ここで過ごした。

まず、男が、親の短期の転勤にくっついてきて、1ヶ月だけ滞在するために、この水沢の村へ引っ越してきた。

その3週間後に、女が、同じ理由で越してきた。

重なった7日を、共に過ごすことは、半ば必然的であった。


全校生徒18人。

5年の歳の子は、ひとりとしておらず、この年このふたりのいる間にだけ、5年生を迎えた。


学校になじめず、ビニールハウスの上で空を見つめる男の影に、女が気づき、声をかけた。

なにを話すでもなく、同じ夕日を見続ける。

半月後には、赤の他人となる同級生と、心を通わすことに、どちらも恐れを抱いていた。


幼いながらに、別れを恐れ、傷つくまいと、必死に言葉をつぐんだ。

“友人を作りたくはないけれど、ひとりではいたくない”

両人の利害が一致したのだ。

それだけを満たす、大切な、大切な他人であった。


先に転校してきた男が出立する前の日。

幼い男女は、静かに、最後の約束を交わした。


「30になった秋に、『さいごのないひと』とめぐり逢えていたら、モアイ山のてっぺんに、しるしを残そう。それで、ぼくたちは、いちばん知りたいことを、お互いに伝えることができる」




…約束の年を、来年に迎える男女が、1つの屋根の下に、暮らしている。

男の名は“あきら”

女は“色音”という。


両人は、両人が誰であるのかを知るための記憶を残しておらず、また思い起こしても、それが彼で、それが彼女であると、知ることはない。


来年の秋。

どちらかが、「水沢に行ってくる」と言う。

そして、「自分もそこに用がある」と返す。

ふたりが、同じ村の、同じ山のてっぺんに、“しるし”を残す、その時に、両者の記憶の、彼と彼女が、男と女であると気づく。


モアイ山の口元は、今日もうっすらと笑みを浮かべ、陽を隠し、身を隠す。

プロフィール

諒

Author:諒
消して訪れないと、確信できる未来ほど、鮮明に強く文字に表わせられます。


憧れて、あきらめていること。

起こりえないと知っていることが、ここでは起きます。


そのためだけの、記録の場所です。