意識の共有 case 1


 「私、男性だからって、男性だから女性を守らなきゃいけないっていうのって、あまり好きじゃない考え方なの」
「どういうこと?」
少し間をおいてあきらは尋ねた。
「あきらくんはずっとそうやって、車道側を歩くよね。私と外を歩くときにさ」
「うん」
「どうして?」
「そうしていないと、しのたんが危険を被った時に、僕は後悔で心が押しつぶされるよ。それに――」
「それってさ! ……ごめん。それに、なに?」
「……それに、しのたんはさっき、“男性だから”って言ったけれど、僕は勿論男さ。でもそれが理由ではないよ。君が傷ついたときに、僕もとても、とても傷つくんだ。僕はそれが、怖くて仕方がない」
「あきらくんが、傷つかないために、私を……?」
「そう。なんだか、自分勝手な理由だけど」
「ううん。私は、そういう理由の方がよくわかる。その方が、嬉しい」
あきらは安心した。しのの顔が緩んだのがわかったからだ。


 「お腹すいたね」
しのが思い出したように呟いた。
「今日はどっちが作ろうか」
「うー。私は今日気分じゃないなあ」
横目で訴えるしのの顔を見るまでもなく、あきらは自分が作る決意を固めていた。
「なにかリクエストはありますか?」
「聞いちゃいますかー?それをー」
しのの顔が明るんだ。
「ばっちこーい」
「よーうし。…じゃあー…カレーで」
「カレーですかー。なるほど。ふむ。よいではありませんか」
しのとあきらは、二人きりで会話をする際に、本人たちでさえ図りえないタイミングで、唐突に他人行儀な口調へ移り変わる時がある。二人がこの癖の起源を探すことはこれまでになく、恐らくこれからもない。

プロフィール

諒

Author:諒
消して訪れないと、確信できる未来ほど、鮮明に強く文字に表わせられます。


憧れて、あきらめていること。

起こりえないと知っていることが、ここでは起きます。


そのためだけの、記録の場所です。