じぶんのことのように case 10


 「私、『何か言いたいことあるんじゃない?』って、君に聞いたことがないね」
「うん。思った時に、思ったまま伝えているから。必要な場合は時間を空けることもあるけれど」
「……そういうところを、いつも信用しているよ。君が何かを溜め込んでいないと、感じていることができるし、何かを言わないでいるにしても、それが、君自身や、私のことを考えてのことだって、知っているから、安心していられるの」
「なんだい色音ちゃーん……」
「それでも、イレギュラーな場合もあると思うからさ。念のため、言っておこうと思って。つまり、『どんな場合でも、君が、何を言っても言わなくても、君の意思がそうであるのなら、私はいつも、君のその気持ちを尊重しているから』そう言っておきたかったの」
「色音ちゃーんっ」
「大切な話だよ。ふざけないで」
「ふぇい……。わかりました」


 「僕が、今の言葉を伝えてもらって、君に言いたいことがあるのだけれどね」
「君も、そう思っていてくれているのでしょう」
「……ふふ。わかりますかあ」
「それはさ、私のこの気持ちは、君から学んだことだからね。君が、まず、私に対して、そういう信頼を持っていてくれたから。私も、同じ気持ちでいるってことを、伝えておこうと思ったの」
「ありがたいですなあ」
「お互いね」


 これまでに、何度、お互いの思いを、聞いて、伝えて、どれほどの言葉を、我が事のように感じてきたのか。2人がそれを思い浮かべるには、あまりに多くの言葉を交わした。それぞれが、想い人を正確に、いつも完全に理解しよう、などとは思っておらず、ただ、どんな時も、ありのままを受け止めて、ありのままを感じて、それを伝えようと、心に決めていた。


 どちらにとっても、生まれながらにそうであったかのように、自然のことであるので、口にする必要を感じていなかったが、時を同じくして、「確認しておかないことで、語弊が生まれる可能性があるのではないか」という可能性に至り、明らかに示しておこうと、行動するに及んだのであった。

プロフィール

諒

Author:諒
消して訪れないと、確信できる未来ほど、鮮明に強く文字に表わせられます。


憧れて、あきらめていること。

起こりえないと知っていることが、ここでは起きます。


そのためだけの、記録の場所です。