日記 case 6


 なにやら珍妙なる大きな物体があきらくんの部屋に置いてあったので、何かと思えば、巷で話題の「セグウェイ」なるものであった。
 なぜ買ったのかと尋ねると、「散歩のため」だそうで、それを耳にした時はさして気にも留めなかったけれど、散歩は自分の足で歩いて散歩と言うのではないかと少し疑問に感じる。
 彼のことだからきっとその辺りの定義は問題ではないのだろうと今は思うけれど、近所の方々からすれば、体を自在に運ぶことのできる小型の機械に乗って徘徊……否、散歩をする彼を不審に思うかも知れない。
 ともあれ彼が外に出ようとしているモチベーションをふいにするようなことはしたくない。言いたくもない。


 そう。外に出る。あきらくんが外をあ……歩く……かな。歩くだ……な。歩こうとしている。それが彼にとってどれ程の勇気と気力を必要とすることかは想像の及ぶものではない。
 私はただ、彼がセグウェイでの散歩を続けられなかった時に、彼のそばにいてあげる。それだけでいい。
 一度もセグウェイを持って外に出なかったとしても、それでいい。彼はもう進んでいるのだから。
 だってセグウェイって、四、五万円するよね。それを買うことは並の決意ではないと思う。
 それはそうと、あきらくんのあのお金はどこから出ているのだろうか。以前、話に聞いた仕事の様を成していない仕事は順調だろうか。彼が働いている様子は見れていないけれど、それは然程気にならない。


 最近、少し楽しそうな彼の横顔をよく見る。私はそれがなによりも嬉しい。
 のんびり。ゆっくりやってほしいな。

 ファイトだあきらくん。

プロフィール

諒

Author:諒
消して訪れないと、確信できる未来ほど、鮮明に強く文字に表わせられます。


憧れて、あきらめていること。

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そのためだけの、記録の場所です。